タロットカードの昼と夜

「二律背反性」をテーマにタロットカードの意味を解説していきたいと思います

大アルカナ9番 「隠者」の意味


はじめに

今回のカードは大アルカナ9番の『隠者』です。

非常にシンプルなカードで、分かりやすいと言えばわかりやすいですが、その分、孤独とか熟慮とか、シンプルな解釈しかできず、読み手泣かせのカードかもしれません。

私はプロの占い師ではありませんが、仕事運や健康運を尋ねられたときに、このカードが出たら、結構困るでしょうね。

結局のところ、このカードは吉なのか凶なのかとシンプルに考えたくなりますが、タロットというのはそんな簡単なものじゃないんだよというのが、作り手のメッセージでしょうか。

例の如く深読みしてみます。

絵の解釈

まずかのカード、白ひげをはやした老人が静かにたたずんでいます。

これは、経験豊かな人物が熟慮しているという理解で良いと思います。

そして、手にランプを持っていますが、その中には六芒星が輝いています。

六芒星は、人を導く叡智の象徴ですが、天を向く三角形と地を向く三角形が合わさった形であり、天(理想)と地(現実)の両方のバランスを取った知性になります。

つまり、この老人は、豊富な経験を顧みるだけでなく、バランスの取れた叡智とも向き合って熟慮しており、その姿は内省的です。

そして、その身を覆い隠すように服を着ていて、その内面を隠しているように見えますが、隠しているというよりは、今は内省的に熟慮している時期であり、外部に向けた情熱や好奇心のようなものを表明していない、一旦横に置いているということだと思います。

以上から、知性や経験に基づき深く考え込んでいるわけですが、同時に、内なる情動を覆い隠し(抑え)、真に内省的な熟慮をしています。

しかし、手にする杖(ワンド)がランプの光を受けて輝いていることは忘れてはいけません。

これは、隠者というカードではありますが、属性を嫌い、隠居して孤独な生活を送り、そのまま人生を終えていく過程を表しているのではなく、生命の象徴たるワンドが輝いており、強い生命力を持っていることを示しています。

つまり、孤独のまま終わるという話ではなく、今は孤独に内省しているが、そのまま厭世・出家するのではなく、また、社会に戻っていく強い生命力を保っているわけです。

そして、立っている場所は山の山頂ですが、雪に覆われています。

この雪に覆われているというのも、メッセージ性があるように感じます。

真っ白なのですが、その下には何かあり、つまり、雪解けがこの後に来ることを示唆しているように感じます。

もう少し深入りします。

六芒星の示す知恵

ヨーロッパでは中世まではキリスト教、具体的には教会の影響力が絶大でした。

しかし、どのような組織も権力を持ちすぎると暴走します。

本来は民を救うはずの教会や聖職者も、ぜいたくな生活や魔女狩りなど、自分達が絶対的に正しいという主張が通る状況にあぐらをかいて威張り散らすようになります。

何か反抗する者があれば、お前は魂が穢れているから神の声が聞こえないのだと、都合よく神の意思を語ってやりたい放題でした。

そんな中、中世位から、哲学者とか思想家という人たちが、神の絶対性を都合よく利用する教会などに反抗し、物事を理性的に考えていく態度を推し進めます。

いわゆる啓蒙主義の時代ですが、神ではなく人間を中心に据えて、科学的理性的に人の生き方や社会の在り方を考えていくようになります。

その結果、人々は、従来は神の意思みたいな曖昧な概念で当然のように考えられてきた身分制社会などの旧習悪習を疑うようになり、市民革命が起こり、王様や貴族が威張るだけの君主制や封建制社会は終わり、産業革命などと相まって社会は大いに発達しました。

しかし、20世紀ごろになると、人間の知性重視が暴走し始めます。

科学の進歩とも相まって、一部の理論派が完全に頭でっかちの空論を弄すようになり、指導者の考えに従って社会を完全に設計・構築しようとする共産主義や、優秀な遺伝子だけ残し、残った人たちを適材適所に配置すればより良い社会ができると考えたナチスのファシズムなど、人間の知性の過信とも言えますが、理性的に社会をデザインし、手のひらの上で世界を組み立てるかのように、社会を変えていこうとする人たちが出てきます。

彼らは徹底的に理論武装し、自分達の社会思想を科学と呼んでいましたし、実際に当時は多くの優秀な学者たちが、これこそが人類の知性の産物であると共産主義にもナチスにも賛同していました。

そして、その結果と言えば、本来はキリスト教への反発だったのに、知性や科学が絶対的な宗教となりました。

自分達の出した結論に同意しないのは、頭が悪くて理解できないからだという、神の声が聞こえないのは魂が穢れているからだと、まったく同じような話になって、社会は分断され大混乱に陥りますが、最終的に、いくら説明してもわからない「愚か者」は大量に殺されたり、シベリヤの「教育施設」に強制的に送られたりしました。

このように、理性的に物事を考えるのは大事ですが、理想ばかり追い求めて、頭でっかちになり、地に足付かない議論になってしまうのは危険です。

理想を描くのは大事でも、現実の社会から理想の社会へ一気にワープすることはできず、社会に変化を起こせば、必ずどこかで軋轢が生じ、様々なトラブルが生まれます。

社会(家庭や会社といった組織もそうですが)にとって、どの方向に進むかという方向性とは別に、どの方向でも急激すぎる変化ほど害悪を及ぼすものはありません。

社会を大混乱に陥らせて終わるだけです。

つまり、私たちが生活する中で理性を発揮する場合も、こうだったらいいなとか、こうあるべきという理想論を振りかざして、社会(組織や他人)に大変革を迫るのではなく、何かを変えるのであれば現実的に対応可能な範囲で一歩ずつ変えていく必要があります。

かと言って、大企業や役所などのように、軋轢を避けようとするあまり、みんなで現状維持にまい進するというのは、とりあえず出来上がっているレールに乗ればいいだけなので、ある意味平穏であり、平和や安定を維持するという点では非常に合理的ですが、変わるべきところがいつまでとっても変わらないという問題が生じます。

それもそれで、理性的なようで理性的とは言えません。

このように、知性というのは、やたら理想を追求すればよいというものではなく、その逆に、衝突を避けるという意味で現実的であればいいわけではなく、そのバランスが必要です。

こうだったらいいなと(希望論)やこうあるべき(あるべき論)とは別に、そう簡単にはいかないという点で、そうである現実を見据えなくてはいけません。

そのバランスを取って初めて自分の進むべき道が照らし出されるわけで、知性の発揮も方向次第では何の問題解決にもつながらないところ、理想と現実のバランスの取れた知性を六芒星は表しているわけです。

社会の変化という壮大なテーマで話しましたが、恋人との喧嘩、会社での業務改善、生徒会など、何かを変えようとするときに理想論をぶつけすぎてうまくいかないことはよくありますし、その反面、他者との衝突を避けようとする大人の知恵を発揮しすぎて状況が何も変わらず自分がストレスを抱えるだけで終わることも多いです。

六芒星は非常によくできたモチーフで、知性の本質はバランスにあります。

隠者の孤独

カードを見ればわかるように、この隠者は平穏ですが孤独です。

しかし、輝くワンドや大地を覆う雪が示すように、生命力もしっかり表現されています。

つまり、厭世的に社会と距離を置き、人との交わりを避けて孤独を選んだ結果平穏になったというわけではないと思います。

あくまで、よりよい雪解けを目指し、一時的に知恵と経験に向き合って内省することを選らんだ結果としての孤独と平穏だと思います。

人は社会の中で生き、なんらかの集団に所属し、他人と交わりながら生きることは避けられません。

その集団の中で、集団に自分を委ねると、あまり考えなくてよくなるために、ある意味気持ちは楽です。

そして、孤独を感じることもありません。

しかし、ずっと集団の中で過ごしたり、他人の価値観に合わせていると、徐々に、自分の中に違和感のようなものが生まれ、息苦しさが芽生えます。

その逆で、集団や他人から与えられた価値観から離れると、孤独にはなりますが、その時に、自分の気持ちを一旦リセットして(覆い隠し)、知性や自分の経験としっかり向き合うことができれば、心は平穏です。

そして、このカードが表すように、一旦集団から距離を置いたところで、それは生命力を失うことは意味しませんし、むしろ逆で、より良い雪解けのために必要なことでもあるわけです。

カードの意味

以上長々と考えてきましたが、このカードは、自分の情熱や好奇心をリセットし、理想と現実のバランスの取れた知性や経験と内省的に向き合うことの重要性を表しています。

それは、自分の所属している組織やつながっている他人に身を委ねることを一旦絶って熟考することを意味しますから、一時的に孤独になることは避けられませんが、決して社会からの逃避や撤退というわけではなく、より良い雪解けを目指す、生命力あふれる活動の一部なわけです。

まとめ

正位置
理想と現実のバランスの取れた理性や自分の経験と静かに向き合い、内省・熟慮すること。もっともそれは厭世ではなく、より良い出発のための準備である。

裏の意味
理性や経験と向き合って内省するという行為は、所属している集団や他人との価値観からいったん離れることを意味するので、振り回されることがなく平穏であるが、孤独は避けられない。

逆位置
理性や経験と静かに対話することなく、組織や他人に自分を委ねすぎている。その結果、孤独ではないかもしれないが、真に平穏というわけではなく、また、新しい出発にはつながらない。


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テーマの著者 Anders Norén