タロットカードの昼と夜

「二律背反性」をテーマにタロットカードの意味を解説していきたいと思います

大アルカナ7番「戦車」の意味

はじめに

今回のカードは大アルカナ7番「戦車」です。

このカードの解釈はあまり議論が無いようであったりする面白いカードです。

個人的に思い出すのはアレクサンドリア木星王の下記解釈です。個性的なのでそのまま引用します。

スフィンクスの色が白と黒である点で、「善と悪」などと心理学的解釈を取り入れす入門書も見受けますが、ナンセンスです。ひとたび戦争が起これば、思想や宗教や人種は関係なく、全てが犠牲者になるという「戦さの恐ろしさ」を教えているのです。

この方は、タロット界の大御所だけあって面白い書籍をいくつも書いているのですが、異常なまでにオリジナリティにこだわるという癖があり、その結果こういう解釈になったのかと思います。

もちろん、解釈は人それぞれなので、どれが正しくてどれが間違っているという議論は、イメージを大事にするタロット解釈において本質的にナンセンスです。

しかし、私にとって、タロットが悩みの奥底にある本質的な部分を語り掛けてくることはあっても、説教してくることはないので、私自身はこの解釈には全く心惹かれません。

ここでは、いわゆる普通の解釈を少し掘り下げてみたいと思います。

絵の解釈

まず、戦車に乗っている人は、服装や冠からして、身分の高い人でしょう。その堂々とした態度から、王とか王子とかでよいかと思います。ここでは、若いので王子とします。

その王子が戦車に乗っているのですが、これから戦争に向かう姿とは私には思えません。手に持っているのがソードではなくワンドであることや堂々としつつも温和な表情からは、戦争で勝利して街を凱旋しているときの様子なのかなと思います。

そしてここからが解釈の本質ですが、この戦車を引いているのが白と黒のスフィンクスです。

動物ですから本能的なものなのでしょうが、犬やオオカミと違ってスフィンクスではありますから、本能よりもやや高次な意思なものだと思います。もっとも、ここについて詳細な解釈は不要で、心の働き一般を指しているとの理解でよいと思います。

そして、白と黒のスフィンクスがいることは、心の中に相反する感情・意思があるということだと思います。

下記は夏目漱石の草枕の有名な出だしです

智に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。

このように、世の中で生きていくためには、結局どうすればよいのかという相矛盾する問題に多数出会います。

しかし、一つ一つをじっくり考えている時間はなく、結局、うまくバランスを取りながら世を渡っていくしかありません。

つまり、前に進もうとするも、心の中には様々な思いが出てきて、それぞれが反対方向を向いていて、白と黒のスフィンクスはそういった心の中にある矛盾を表しているのでしょう。

そして、その一方にとらわれることなく、その両者をバランスよく調和させて前進する姿をこのカードは描いているわけです。

また、この戦車は単に前進する様子を描いているだけではありません。

王子の勝利の凱旋ですから、これまで前進してきて、地位・名誉・成果といったものを手に入れてきたことを意味しています。

そして、王子の両肩には、悲しい顔の月と喜ぶ顔の月が載っています。

つまり、この王子は、心の中にある矛盾した思いや欲求を上手く意志の力で制御しながら前進し、喜怒哀楽を乗り越えて、勝利すなわち自身の目的を達成した様を描いているわけです。

したがって、カードが表すのは、Triumph of mind、つまり、意志の勝利です。

バランスをとる

私はこのカードが大好きです。ものすごい深い問題点を私たちに教えてくれます。

このカードが投げかける本質的な問題、それは、「前進か解決か」という非常に深い問題だと思います。

まず、2匹のスフィンクスの間に描かれているコマが重要かと思います。

このコマは立っていますから、つまり、バランスが取れていることを意味しているのだと思います。

白と黒の相反する感情をバランスよく制御されているわけです。

しかし、コマが立つのはコマが回り続けているからです。回転が止まればたちどころにバランスを失って止まってしまいます。

つまり、この戦車にのって王子が前進できるのは、矛盾する感情や欲求をバランスよくコントロールできるのは、目的があって、それに向かって前進しようとしているからこそなのだと思います。

前進して勝利を収めたものの、その途上にある矛盾を一つ一つ解決しているわけではないのです。

こういう場合はどうすればよいのかという一つ一つの疑問に真正面から向かい合うのではなく、人間として極端にならずバランスよくふるまって前進することのみを考えて得た勝利なわけです。

したがって、喜怒哀楽を背負ってはいますが、文字通り自分が前進するために背負ってきたわけです。

本当は、もっと深く考えるべきだった問題もあるかもしれませんし、どこかに落とし物をしていたかもしれません。別のやり方があったかもしれません。

しかし、自分には優先すべき目的があったがゆえに、意思の力で乱れる心を制御して、乗り越えてきたのです。

立ち止まれない

現代社会は立ち止まれない社会です。

学校に通う生徒が「通う意味があるのかないのか考えたいからしばらく休む」とか、会社員が「働く意味がわからなくなってきたからしばらく会社を休んで考えたい」なんて言ったら大変です。

直ぐにカウンセラーが飛んできて、心の病気予備群として治療の対象にされてしまいます。

しかも、それらカウンセラーというのは、学校に通う意味を教えてくれるわけでもなく、働くことの意味を教えてくれるわけではなく、「とりあえずまずは心の中にある不安や苦しみについて考えよう」といって、あれこれ言って結局は学校や会社(もしくは病院)に行かせようとします(失礼)。

いずれにせよ「前」に進めさせようとしてきます。止まることが問題とされ、もう一度歩き始めることが解決なわけです。

不登校の生徒はなぜ自分が学校に行けないのか悩みます。しかし、難関大学に行って官僚になりたい人にはこんな悩み無縁です。そんなことにかまっている余裕はないからです。とりあえず勉強して難関大学に入らなくては始まりません。

安定した大会社でサラリーマンとして働く若い社会人がキャリアで悩むのも、若いからであって、結婚して子供が出来てマイホームローンを抱えたら、自分はなぜ働くのかなんて誰も考えません。

つまり、前に進むということは、様々な矛盾を放置することでもあります。それをしないと前に進みません。

このカードは現代人そのものです。

目標に向かう過程で生じた様々な矛盾を取り込み、なんとか意志の力で極端に触れることなく様々な感情を制御しバランスをとり、自分の目標に突き進むさまを描いているわけです。

一つの勝利ではありますが、後に、大アルカナ16番「塔」につながる予兆かもしれません。

裏の意味

このカードが表現する勝利の裏側には、その過程で様々な疑問を放置してきたことがあります。

深入りせずにバランスと保つことで社会の中で前進しきました。

特に、勝利というのは極めて俗で社会的なものです。地球上に一人しかいなければ、そこには勝利も自己実現もありません。

結局、自己実現とか目標の達成とかも社会あってのものであり、自分の心の中にしかないものではありません。それは、社会の中で地位や名誉の獲得といったもので、社会に認められることや社会から求められる役割を演じることは避けられません。

したがって、勝利には、社会が変われば価値もなくなるという運命が控えているわけです。

そして、そういった社会の変化を乗り切るためにこそ、自分の心と向き合い、本質的・根源的な問題をじっくり考え、自分なりに答えを出したり、見直したり、悩み続けたりすることが重要です。

今ある環境の中で、目標に向かってまっしぐらに前進して一定の成果を出した半面、本質的な問題を深く考えてこなかったというのがこのカードの裏側でしょう。

逆の意味

逆側の意味としては、前に進めず、成果を手にできないことを表していると思います。

なぜ前に進めないかというと、感情の制御が出来ず、心があちらこちらに向かって、おかしな方向に進んだり、立ち止まったりするからです。

また、心の中にある白と黒のスフィンクスのバランスを取れないだけでなく、肩に負った喜怒哀楽にとらわれたせいかもしれません。

まとめ

正位置
意志によって心をバランスよく保ち勝利・成果を獲得。しかし、その反面見落としがあるかもしれない。本質的な問題を後回しにしているかもしれない。

逆位置
心の制御を保てないことによる敗北・停滞。本質的な問題を後回しにした上辺だけの成果でしかない。

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テーマの著者 Anders Norén